読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

「スサノオ、姉ちゃんと喧嘩する」の巻

日本神話と妖怪

日本神話と妖怪特集その5

スサノオVSアマテラス

先は長いぞ気力は残っているか⁉

――ということでこの日本神話特集も5回目を迎えました。

前回ようやく名の通った三貴士が登場し、日本神話もエンタメ色が強くなるところ。

今回は産まれたばかりの建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと。スサノオのこと)と姉ちゃんにあたる天照大御神との姉弟喧嘩がメインです。

ツクヨミさん? だからもう哀しいことに出てこないんですってば。

なぞって紹介してるだけですが過去の日本神話特集もよければご覧ください。

日本神話と妖怪

 

母さんに会いたいだけなんだ

前回イザナギパパに海原の支配を任されたスサノオ。しかし荒くれスサノオはのっけから駄々をこねて泣きわめきます。

f:id:youkaiwiki:20150120124510j:plain

『古事記』には、

「長い髭が胸の前に垂れるまで長い事激しく涙を流しながら泣いていた。その涙は青々とした山の草木を枯死させ、海や河の水はすっかり泣き乾かしてしまった」

とあります。

泣いているのだから水害か? と思いきや、真逆の現象が起きているのが興味深いのですが、これはスサノオが、この部分に於いては「火山の噴火」を現しているのではないか、という説がありまして、それだとしっくりきます。

とにかく自然現象の破壊的部分を担っているのがスサノオなんですね。

ただ、同時に我が国では自然災害によって齎された破壊は多くの植物を育む土台にもなるので、スサノオというのはまさに自然が持つ「破壊と再生」をそのまま擬人化したような神様なのですね。

 

――泣きわめくスサノオを見て、イザナギは聞きます。

「おいスサノオよ。お前は俺が治めろと言った海原をしっかり治めないで、何を泣いてるんだ?」

「俺ぁ母さんのいる根の堅州の国(黄泉の国と同義)に行こうと思ってるンだ。それで泣いている」

スサノオの返答に、イザナギは激怒します。

「なるほどな! ならお前はこの国に住んでいてはいけない。出て行け!」

「あぁ出て行くとも。その前にしっかりアマテラス姉さんに事情を話して許して貰ってから行くことにするさ」

逆ギレしたかと思った次の瞬間にはしっかり姉ちゃんに挨拶に行こうとするあたり、可愛げのある神様です。

 

姉さんに許して貰いたいだけだったんだ

早速スサノオは姉、アマテラスのいる高天原へと昇りました。

しかし破壊神スサノオが天上へと昇る際には山川全て振動し、大地は轟いたと言います。

その様を見てアマテラスはこう言います。

「弟が昇ってくる……。あの様子ではきっと善い心でここに来るわけではなさそうね。この高天原を奪いに来るのよね。そうでしょう! スサノオッ!!」

f:id:youkaiwiki:20150120144723j:plain

高天原を守るべく、勘違いした姉は物凄い形相で立ち上がり、まず髪を解いて男性がするような角髪(みずら)に結い直し、左右の手には勾玉を着け、背中には千本もの矢が入りそうな靫(ゆぎ。矢を入れる武具)を、更に高い音を出す鞆(とも。放った弓の弦が当たるのを防いだりする武具)を肘に着け、弓を振り起こし、地面を股に力を入れてしっかりと踏み、土を軽い雪のように蹴散らし、雄々しい叫び声で、到着したスサノオに問うたのです。

「どういうわけで昇ってきたのかッ!」

「ちょ……姉さん、勘違いしないで。俺は謀叛心があってここに来たんじゃない。母さんに会いに根の国へ行きたいと言ったら追放されちゃったんだよ。せめて姉さんにはその事を伝えておきたくて……」

「ふん。そんな言葉でお前が真実忠誠心を持ってここに来たかどうかなど知れない」

「姉さん……。わかった。じゃあこうしよう。ウケヒだ。お互い誓約を立てて子を成そう。それできっとわかるはず」

 

ややこし妖しウケヒの謎

こうして二人はウケヒ(宇気比。日本書紀では誓約、と現される。あるルールを決めて吉凶や白黒を付ける、卜占要素の多い行為)をすることになります。

この部分はとかく議論の的となるややこしい部分。

 

最初にアマテラスがスサノオの持つ剣(十拳剣)を噛み砕き、ぷぅと吐き出すと、そこから女神が三柱産まれました。

これが福岡県にある宗像大社の主神である宗像三女神です。

次にスサノオが、アマテラスの持っていた勾玉を噛み砕き、ぷぅと吐き出すと、そこから五柱の男神が産まれました。

正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)というウマシアシカビヒコジノカミ以来の超長い名前の男神を筆頭にした五柱の男神です。

因みにこの五柱の中に、妖怪一目連など多くの妖怪と関係している天目一箇神(あめのまひとつのかみ)の父親に当たる天津彦根命(あまつひこねのみこと)も誕生しています。

これらを合せて祀っているのが八王子神社です。(ただし、元は牛頭天王の八人の子、八王子を祀ったのが始まり。それが明治の神仏分離の際に、牛頭天王と同一視されていたスサノオの、ウケヒ時の八神に取って代わったようです)

アマテラスはスサノオに言います。

「今産まれた五柱の男神は、私の持っていた物から産まれたから私の子。さっき産まれた三女神はお前の持ち物から産まれたからお前の子とするわね」

それを聞き、スサノオは高らかに叫びます。

「ならばどうです! 俺の忠誠心が本物だからこそ、産まれたのはしなやかな女神だ! 俺の勝ちですね、姉さん!」

 

――さてここで僕は随分混乱しました。

なぜなら、まず古事記には「勝敗を決めるルール」が書かれていないからです。

日本書紀にはいくつかの書に「男神を産んだのなら勝ち」と書かれているのですが、古事記にはそれがないのですね。

 

そして。

今このウケヒの部分で太字にしてきた部分。やけに太字乱用ですなぁ、と思われたかも知れませんが、全て凄く重要な部分なのです。

上から順番に見て行きましょう。

・最初にアマテラスがスサノオの剣を噛み砕き、三女神が産まれた。

・次にスサノオがアマテラスの勾玉を噛み砕き、五男神が産まれた。

普通に考えたら、噛み砕いた本人の子になりそうなものを、アマテラスは逆の事を勝手に決めちゃっています。

・お前の持ち物から産まれたのはお前の子、私の持ち物から産まれたのは私の子。

なんかちょっと強引過ぎやしませんか? アマテラス姉さん。

次に、書紀では「男神産んだら勝ち」と書かれているのに、アマテラスの勝手な決め事で女神を産んだことにされたスサノオが直後に勝利宣言していること。

うぅ……どんどんややこしくなりますが、頑張りましょう。

これらの謎がなんとなぁく氷解するのはもう少し後に回します。メンドイんじゃないですよ。この後の事を書かずに皆まで書けないだけなのです。

 

やけくそスサノオ

高らかに勝利宣言をしたスサノオは、勝った勢いで大暴れ。

アマテラスの耕していた田んぼをぶっ壊し、溝を埋め、大嘗を行う神聖な御殿にうんちをまき散らしました。

しかし優しいアマテラス。

「違うのね、解っているのよ、スサノオ。酒に酔って吐き散らかしただけでしょう?

土地が惜しくって溝を埋めたりしただけでしょう?」

「そうとも姉さん! これが俺だ! 俺の忠誠だ!」

とでも言わんばかりに、スサノオの暴挙は続きます。

アマテラスが神聖な衣を機織女に織らせていたところへ、スサノオは皮を逆さから剥いだ馬をぶん投げます。驚いた機織女は、勢いで梭(ひ。機織り機の付属部品の一つ)に陰部が突き刺さり死んでしまいます。

これには流石のアマテラスも閉口し、遂に天岩戸(あまのいわと)へと隠れてしまうのです。

 

スサノオさん、一体どうしちゃったんでしょう? 勝って喜んではしゃいだにしては一寸度が過ぎている気がします。

因みにここでスサノオが行った愚行は、『延喜式』の大祓詞にもある、天津罪(あまつつみ)をなぞっています。

姉弟喧嘩の裏事情

では最後にこのスサノオアマテラスの姉弟喧嘩の裏事情を、ウケヒの謎と共に考えてみましょう。

まず、なぜアマテラスはジャイアン思考的に勝手にどちらの子かを決めたのか。

これは、アマテラスの子は男神である必要があったから、でしょう。

というより、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命が、アマテラスの子である必要があった、と言った方がいいかも知れません。

この長いお名前の正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命は、後にニニギのパパになる神様。ニニギは神武天皇に直結する神様ですので、ここでアマテラスが正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命の親になっていなければ天皇家の系譜がおかしくなっちゃうンですね。

というかもうココは譲れない一線だったでしょう。そりゃジャイアンアマテラスにもなります。

 

次に、結果的に男神を産んだことになったのはアマテラスであるにも関わらず、スサノオが高らかに勝利宣言したのはなぜか? という部分。

冷静に考えると、勝ったのはアマテラスです。決定的なのは、アマテラスの子になった正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命の名前。

マサカツアカツ――とは、やったぜ勝ったぜ私が勝った! という意味。その親となったアマテラスが勝利したと見るのは至極当然。

で、スサノオは勝利宣言の後、様々な暴挙を繰り返すわけですが、これは「負けたのに勝ったと嘯いてヤケクソになって暴れた」と考えるとかなりしっくりくるのです。

しかし結局定説があるわけではなく、真相は闇の中。

ただ、その時代の様々な裏事情を知らなければ本当の日本神話というのは見えてこない、というのは間違いなさそうです。

 

 

長くなりましたが、殊更謎の多い面白い部分でもあるアマテラスとスサノオの喧嘩。

特にアマテラスがスサノオを迎え撃つ時の描写は『古事記』の中でも屈指のかっこいいシーンで個人的に大好きです。

伊達に皇祖神やってねぇよ! というアマテラ姉さんの貫禄を感じます。

でも今回でスサノオの暴挙で引き籠り化した姉さん。次回は神々の乱痴気騒ぎとも言うべき『天照大御神奪還作戦in天岩戸』をお送りします。

つづく