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妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

『妖怪へぇこいたの手記』

決められた路を歩みたくなかった。

だから、こうして生きてきた。

反抗。

反抗する事でしか自分を表現できない。

逃げる。全力で逃げる。

いやだいやだいやだ。

僕はこのままでいい。動きたくない。ここがいいんだ。ここじゃなきゃダメなんだ。

「この場所が永遠だとでも思っていたみたいだけれど――」

お前は誰だ。

「まるで自分だけは平気だ、自分だけは違うんだ、なんて思ってたわけじゃないでしょう?」

誰なんだ。

「路肩で寝そべる男を蔑んだでしょう。嘲笑いもした。でも――同じだと気付いてしまった?」

何の話をしているんだ。そんなことは一度も……

「自分の選んだ路が悪路かどうかなんて誰にも解らないし、それは考え方一つで悪路にも善路にもなる。それなのに君は――いつまでも被害者ぶっている」

悪路……。違う。僕の選んだ路は悪路だった。被害者ぶっている?

「路上で路駐してぐうすか寝るタクシー運転手に冷ややかな目を注いだ。でもやっぱり――同じだと気付いた」

そう……かも知れない。結局、同じだ。

僕はかつて思い描いたなりたい自分になれていない。今の僕を過去の僕が見たら、やっぱり蔑んだ目で見るのだろう。

でも――。

「でも、だって、だから、違う、そうじゃない、本当は、僕は。言い訳だけは一流だけど、やっている事は二流だ。いや、二流も褒めすぎかな」

抉られる。僕の心の何かが、抉られていく。

誰かもわからない声を殴りつける。虚しく空を切る拳は逆に僕の心をより深く抉る。

「活路を見出したいのなら現実を見るんだ。路はいつだって開かれている。無限に、あらゆる方向に。一つの路しか見えていないのなら、それはただ単に君の目が曇っているだけだ」

路は……無限に……開かれている……?

「妖怪が好きなんだろう? 何か、そうだな、路標になるような妖怪はいないのかな? 何でもいい。適当に、照らしてくれるような――うん、火の妖怪がいいね。そういう妖怪、知ってるンでしょう?」

妖怪? 何をいきなり。火の妖怪――怪火か。思いつくのは……悪路神の火

笑えるよ。こんな時にだって思いつくのは悪路だ。悪路神の火だ!

「悪路神の火か。うん、なるほどね。やっぱり君は自覚してるみたいだね。ウソはいけないよ。誤魔化すのも良くない。これは全部マヤカシなわけだね?」

何を言っているのか。

僕は自覚している? 何を? 全部まやかし。そりゃあそうだろう。意味が解らない。

「まぁいい。じゃあその悪路神の火、そいつを頼りに生きていけばいい。じっと待つんだ。その火が通り過ぎるのを。それで、通り過ぎたら一目散に逃げる。いいじゃないか、君にお似合いだよ」

僕は悪路神の火が嫌なわけじゃない。悪路を行きたくないだけだ。

「どうだっていいんだよ、そんなことは。言ったでしょう、考え方一つだって。そもそも人なんて生きていることに意味なんて無い。勿論、死ぬことにも意味なんて無い。君がチッポケな弱音を吐き散らかした所でなんにもならないし、深く考える必要も無い。遅かれ早かれ人なんてみんないなくなっちゃうんだ」

そうかも知れない。意味なんてないんだろう。けれど、そんな風に考えて生きるのはいやだ。

いやだ。それだけだ。いやなんだ。

僕は僕の路を行く。いや、僕は僕の路を行くしかない。みんなそうなんだ。

「……そうだね。それでいいと思う。何事も、前向きに考えた方がいい。いいに決まってるんだよ」

で――お前は誰なんだ?

「僕は君だよ。わかっているくせに」

そうか。君は僕か。

「そろそろ振り返ってみるといいよ。君が通ってきた――いや、書いてきた路をね。タイトルにも使えばちょうどいいと思う。それと、悪路神の火の出没地も調べてみることだね。全て、繋がっている。君は最初から自覚している、と言った通りだよ」

声がしなくなった。

本当に、何のことなのだ?

僕は言われた通りに調べ、愕然とした。

書いてきた「路」の数は二十九。

悪路神の火の出没地とされているのは、三重県。

三重……さんじゅう、か。

そうか。

僕は、三十歳になったのだ。

逃げていたのはこれだったのか。

実は全て、最初から解っていたのか。

二十代という場所は脆くも崩れ、あっけなく訪れた新たな世代から逃げていた。逃げられないということも知っているのに。

考え方一つ。

そういうことか。

 

僕は僕が言った通りに、強い意志でタイトルを打ち込んだ。