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妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

いつもそこにあった妖怪の足跡

『妖怪へぇこいたの手記』

幼い頃。

おもちゃ屋に連れて行って欲しいが為だけにいつも押しかけて入っていた部屋。

駄目だと怒鳴られ泣きながら部屋を出る時、小難しい本ばかり並んだ本棚を蹴りつけて部屋を飛び出た記憶。

漢字ばかりの本。やたらに分厚くて、やたらに豪華で。

 

――つい先日、久しぶりに実家に行く機会がありました。

適当に家族に挨拶をし、用件を済ませ、最後に最近どんどん衰えてきていると聞いていたじいちゃんに会うべく「じいちゃんの部屋」へ向かいました。

実家にいた頃、父親方のじいちゃんは、ずっと同じ家で一緒に暮らしていたのです。

久々に会ったじいちゃんは……確かに、以前のような破天荒さや五月蠅さがすっかり消え、老人となってしまっていました。

「最近心臓がいけなくってなぁ。この町一番の医者によぉ、もう十分生きたんだからそろそろいいんじゃない? って言われちまったよ。ありゃほんとにいい医者だわ」

そう言って呵呵大笑するじいちゃんを見て、とりあえず当分は平気だな、なんて思いました。

ただ、じいちゃんはその医者と二日間話し込んだ、と言っていました。

二日間話し込む。僕はその言葉から、今は気丈に言っているけれど、死ぬのが嫌で嫌で医者に噛みついてたんだろうな――なんて想像して少しだけ淋しくなりました。

その後仕事の話など他愛もない話をし、ふと思い出して

「そういえば妖怪検定なんていうふざけた検定に受かったんだけど、じいちゃん妖怪とか興味ないの?」

と聞きました。

すると突然――。

じいちゃんは、部屋の隅の、薄汚れて古びた扉付きの本棚の前に行き、バーン! と扉を開け放ちました。

そして一言。

 

「全部持ってけ」

 

なにこの漫画みたいな展開……と驚く僕。開けられた本棚を見ると、びっしりと超分厚い本が詰まっています。

そしてそのほとんどが、各地の口碑伝承を集めた、いわゆる民俗学的な本ばかりでした。

「バケモンは知らないけど、こういうのは好きでな。関係あるだろ?」

この本棚に詰まっていたものは、こういう類のものだったのか!

僕は幼い頃全く興味を持てずにいたそれらの本が、歳を経て自分にとっての超貴重資料となったことに、妙な、それこそ運命的な、不思議なモノを感じました。

その後二時間ほどでしょうか。

僕とじいちゃんは今まで一度も無かったであろう程に熱心に、そういった方面の話で盛り上がりました。

じいちゃんは、柳田國男が嫌いらしいです。

「あいつは多分国と繋がってたんだ。だから本当に大切な部分を書かなかったりする。サンカ、夜這い、色々だ。それを省いて何が民俗学だ? って思うわけだよ。だから俺は柳田じゃなく、本当の日本の民俗が知りたくてこんだけ集めたんだ」

そこには柳田國男の本も沢山ありました。厭よ厭よも好きの内? でも確かに、それ以外の、名前も知らない、或いは著者名すらない本がぎっしり詰まっていたのです。

 

僕よりも遥かに熱心に、じいちゃんは民俗学を愛し、勉強したのでしょう。

流石にほんとに全部借りるわけにもいかなかったので、吟味させてもらった挙句数冊の本を借りました。

その中に、今回日本神話特集をするきっかけになった古事記に関する古臭い本もあったのです。

繋がる――。

何かが、繋がった。漠然とそんな風に感じた僕は、じいちゃんに全ての本を必ず借りる、と約束しました。

「俺ね、本読むの好きだけど飽き性だし読むの遅いんだ。ちょこちょこ借りに来るから、それまでは生きててね。多分、20年はかかると思うけど」

我ながらかなりイケメンな気の利いた事を言ったな、と思いましたが、じいちゃんは予想外の反応をし、突然心臓の状態についての講釈が長々と始まったのでちょっとうへぇとなりました。

 

いつ、どこで、何と何が繋がるか、わからんものです。

物心ついてからはじいちゃんの部屋になんかほとんど見向きもしませんでした。

でも。

いつもそこにあった妖怪の足跡。

これもまた怪異と言えるでしょう。