読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

同じ名前、違う境遇、妖怪ドヨーン

『妖怪へぇこいたの手記』

今日もお昼から教習所へ。平日休み万歳。

そして今回初めて、他の生徒と一緒になりました。今までずっとボッチだったので少し緊張。

たまたまその生徒さんと僕は二時限連続で予約しており、さらにたまたまその生徒さんと僕は姓が同じでした。

以下便宣的にドッペルさんと呼びます。

 

最初に二人でシミュレーターで右左折だのをやり、その次の時限で法規走行を路上で。

僕はATだし、心配性なのでコースも完全に暗記して臨んだのでお叱りも少なく出来た(と思う)のですが、ドッペルさんはマニュアルだし操作もまだあまり慣れないらしく、何度も止まったりしていました。

その都度教官が「〇〇〇さん」と大声で呼ぶのですが、僕もドッペルさんも同じ姓なので二人で返事をしてしまう。

「なんだお前ら二人で返事して。ガハハハ」

「やだなぁ教官。同じ名前なんですから、下の名前で呼んでくださいよ笑」

――みたいなほんわかしたやり取りは残念ながらありません。そのままスルーされるだけでした。

なんてことをしてる内になんとなくドッペルさんと話をしてみたいと思ってきたのですが、そんなチャンスは無く今日の教習は終了。

 

そそくさと帰ろうかとも思ったのですが、最後の最後まで教官に怒られ気味だったドッペルさんに何か言ってあげたくて、僕は喫煙所でずっと待っていました。

ドッペルさんも教習前にタバコを吸っていたのを覚えていたので、多分来るだろう、と。肩身狭すぎて強制ダイエットさせられそうな喫煙者ですがこんな時は使えるモンです。

 

――案の定彼は来ました。僕はすぐに、「クラッチってマジで難しそうですね」と僕がAT限定だからこそできる切り出しで話しかけました。

するとドッペルさんは凄く嬉しそうに、堰を切ったかのように喋りはじめました。

 

ドッペルさんは40歳過ぎで(の割には若く見えた)、免許も原付しか持ってないから学科も沢山受けなきゃならず、とにかく大変みたいです。

さらに最初の段階が終わるまでに5時限も補習を受けたのだとか。

「お金も追加で払わなきゃならないし、この調子だといつ卒業できるかわからないし……」

悲壮感。

弱気そうな雰囲気と相まって、喫煙所は「ドヨーン」という空気で満ちていました。妖怪の気配。

でも僕はなんとかドッペルさんに元気になって欲しかったので、一発試験の失敗談やクラッチのクの字も知らぬ僕の無知を話しました。

そして「お互い頑張りましょうよ!」と。

んが。僕の「陽」の気は、ドッペルさんの「陰」の気に勝ることはありませんでした。

「それよりも……俺は教官に苦手な人がいるんです。予約を取った時、担当の教官の名前が解るじゃないですか。だから、予約を取った時はなるべく担当教官の部分を見ないようにしてすぐに画面を閉じるんです。前もって知っちゃうと、恐くてイヤになっちゃいますから」

……あ、そんな表示されてたんだ。

という僕の呑気なプチ感動をよそに、ドッペルさんの陰の気はさらに加速していきました。

 

AT限定は時限数も少ないですし、面倒ですがただ淡々と通っている僕とは裏腹に、きっとドッペルさんは本当に厭で厭で仕方がないのでしょう。

「でも、俺が乗りたいバイクはこの免許でしか乗れないんですよね」

そう言ったドッペルさんの目には決意の光があったような気がしました。

 

最後に「名前ややこしいですが、また一緒になったらよろしくお願いします」と僕が言うと、ドッペルさんも「えぇこちらこそ」と笑顔で言ってくれました。

姓が同じだからなんとなく気になったドッペルさん。話して知った通う気持ちの違い。

多分ドッペルさんは、何か状況が変わるわけではないと解っているけれど、話を聞いてくれる人を欲していたのでしょう。そして僕は、話を聞いてみたいと思った。

ほんの少しでも、ほんの僅かな間でも、ドッペルさんが前向きになれたのなら僕も嬉しいです。案外話を聞いて欲しかったのは僕かも知れませんし。

 

――しかし僕がドッペルさんに別れを告げて歩き出したその背後で、大きなため息が聞こえました。多くの苦悶を内包した暗く重いため息です。

それと同時に世界は再び妖怪ドヨーンに包まれ、帰路に着いた僕の心は妖怪ガビーンに支配されてしまったのです。

怪異(つд⊂)