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妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

人か妖怪か「果進居士(かしんこじ)」

果進居士(かしんこじ)

『果心居士幻術の事』
『果心居士幻術の事』
 
果進居士の名を聞いたことがあるだろうか?
僕は歴史シュミレーション系のゲームでかろうじて知っていたが、ゲームの中でも極めて捉えどころのない人物となっていた。
 
その実在も妖怪の如く曖昧なのだが、戦国時代には果進居士の逸話がいくつか残っており、完全な創作ではなさそうではある。信長、秀吉、家康らの前にも現れたと言われている。
 
果進居士の名以外に、果心居士、因心居士と呼ばれている書もあるが、おそらく同一人物だろうと思われる逸話からいくつか紹介するので、ただの奇術師か、妖怪か、はたまた創作か、考えてみて欲しい。
 
果進居士の「特等席に座の術」
 
ある日居士は芝居見物に来た。
しかし見物人が多過ぎてとても芝居を見るどころじゃない。
そこで居士は、なんとか隙を作っていい席を取ってやろう、と考えた。
居士はおもむろにアゴに指を当てて撫で始めた。すると見る見るうちに顔が縦に伸び始め、周りの人々は腰を抜かした。
そのあまりの奇妙な芸に、見物人はおろか芝居の演者までもが居士の周りに集まり、これはすごい、と面白そうに見た。
「今が好機!」
と居士はふいに姿をくらまし、居士を探す人々を背に、悠々と一番前の席へ座ることができた。そうして居士は最前列で芝居を堪能したのだそうだ。
 
果進居士の「借りた金バックれの術」
 
果進居士は商人から金を借りて生計を立てていた時期があった。しかし京都に移り住む際、全く金を返さずに隠れるように引っ越してしまった。
ある時、商売の為に京都へ来ていた金貸しの商人が、ばったりと居士に出くわした。
「ここで会ったが百年目。おい果進居士! 借りた金も返さずに夜逃げするとは最低な野郎だな! 早く返しやがれ!」
商人はそう居士に詰めよった。
居士も流石に反省していたのか、アゴを撫でてしょぼんとしていたーーかと思いきや、突然居士の顔が横に膨らみ、目は丸くなり、歯は前に突き出て、鼻もぐんぐん高くなった。
そして居士は、
「はて?  私はあなたの事を知りませんが?」
と言った。
何をぉ? と商人は思ったが、確かに顔は全くの別人。人の顔が突然変わるなんてことあり得ないし、もしやただの見間違いだったかーーと、考え直し、
「いやいや、これは無礼な事を言ってしまった。どうやら人違いだったようです」
と謝罪して立ち去って行った。
この話を後に聞いた人々は、
「それは是非とも習いたい術だな」
と言って笑ったという。
 
 
「松永弾正久秀を驚かすの術」
 
松永久秀が多門城(奈良県)にいた時のこと。
ある夜、松永は果進居士に
「俺は戦場で何度も戦って来たが、今まで一度も恐れ慄いた事が無い。居士よ、お前の有名な幻術とやらでこの俺を恐れさせてみよ」
と言った。すると居士は
「わかりました。では、この部屋の灯りを全て消し、更に刀剣の類い一切を置かないで下さい」
と言った。松永は部下に刀剣を持たせて退出させ、灯りも全て消させた。
居士はそれを確認すると、つと立ち上がり、室内を歩き出した。
するとにわかに月影が翳り、小雨が降り出し、松永は何故か物悲しい気持ちにはってきた。
これはなんだ?
と松永が考えていると、ふとすぐ側に女が立っているのが見えた。そしてその女は松永の正面に歩いてくるとゆっくりと座り、
「今夜は大層徒然なるご様子ですね」
と言った。
その声は紛れもなく、五年前に病死してしまった松永の愛する妻の声。
松永は遂に堪え切れず、
「参った。居士よ、やめい!」
と叫んだ。するとすぐ正面の女が「ここにずっとおりましたが?」と言ったので良く見ると、確かにそれは果進居士だった。
一体どんな術を使ったものか、ともかく松永久秀は呆れて感服したという。
 
 
 
ーーどの逸話もなんだか創作臭はするものの、複数の書に書かれていることから実在の可能性も捨て切れない居士先生。
中国には仙人や幻術使いで有名な人物は多いが、日本には少ないので目立つ。
居士の最期は、秀吉に殺された、という説があるのだが、その説にも「殺されたと思ったらネズミに化けて逃げてた」というバージョンがあり、やはり判然としない。
実在したかしないかは最早いいとして、とにかくこういう謎多き人物というのは魅力的である。
僕も謎多き人になりたい。