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妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

幽霊なら仕方ないね……腰抜け幽霊(こしぬけゆうれい)

腰抜け幽霊

妖怪と幽霊の違いってなんぞや? という記事で書いたように、幽霊というのは○○さんの霊、というように個人故人であることが前提である。

ならばやはり幽霊にも個性があり、デキル幽霊もいれば残念な幽霊もいる。

ここで紹介するのは、井原西鶴の『西鶴名残の友』に書かれている「腰抜け幽霊」というまさにその残念な幽霊の物語。

 

――旅の道すがら、出羽の国恋の山(湯殿山)の麓を歩いていた時の話。

日も暮れ、生い茂る小笹を掻き分けて進んでいると、ふと妖しい女を見かけた。

女は乱れた髪で、岩から滴り落ちる滴を飲み、口からは焔の如き息を吐いている。

とてもこの世のモノとは思えない有り様から、きっとこの女は幽霊だろうと思い、思わず逃げようとしてしまったが、こういう時に僧侶は頼りになる。

一行の中には僧侶がいて、その僧侶がずいと進み出て女に声を掛けた。

 

「何をそんなに迷っているのですか? 何かあるのならば言ってごらんなさい。そうすればきっと成仏させてあげましょう」

 

すると女は涙をこぼしながら、

 

「なんとありがたいことでしょう。でしたら私の話を聞いてください。

私には人生においてただ一人の愛した男がいました。

その男はイケメンで、私が千回も想いを伝えてようやく結ばれることができたのです。

もし死に別れるようなことになっても、お互い決して他に恋人を持たない、と固く約束し、神や仏にも誓いを立て、さぁ幸せにやっていこう、と思っていました。

しかしあの男は早々に年上の女と浮気をし、そればかりか私を殺そうと神に祈りまでしたと聞きました。

最早この世に生きる意味も無い、と私は悶え苦しみ、怒りと嫉妬の焔に身を焦がしながら、絶対に許すまじ、と呪いつつ死んでしまったのです。

そうしてこのような姿となってからも、私は男が浮気相手の女と楽しそうに語らう場所へ毎晩通いました。きっと取り殺してやろう、と思いながら。

しかしある晩、二階の座敷から聞こえる男と浮気相手との楽しそうな声を聞き、焦る気持ちで梯子を上っていると、つい足を踏み外して落下し、腰を痛めてしまいました。

それで、こんな状態では本望も遂げられない、と泣いていたのです」

 

と語った。それを聞いた僧侶は、優しくこう言った。

 

「最近の若者は気力に欠けます。ですから幽霊となってもやっぱり腑抜けです。

なので、最期にきっと取り殺してやる! なんて言ってみたところで、昔と違って気力不足でなかなか叶わないようですね。

あなたもいい加減諦めなさい。

侍だったら腰抜けと罵られ役立たずの烙印を押されるかも知れませんが、幽霊なら腰抜けだって何ら差し支えないでしょうよ」

 

そして僧侶は幽霊に膏薬を貼ってやり、幽霊に別れを告げて先を急いだ。

 

――という物語である。

文字通りの腰抜け幽霊と、本当に頼もし過ぎる僧侶の説教が痛快である。

まさか江戸時代の書の中でも「最近の若いモンは……」という言葉を聞くとは思わなかった。どの時代でも、若者はそう言われる宿命なのだろう。

幽霊とは何か? なんていう定義も完全スルーで、梯子から落ちて腰を痛める幽霊、幽霊にシップを貼って「じゃあ達者で」と去って行く一行、と、実にぶっ飛んだ面白い話である。

こんな幽霊もいるかと思うと、恐怖どころか愛着さえ沸いてしまう。

死んだ後にまで坊主に説教されたこの女幽霊は、果たして本当に成仏できたのか気になる所である。