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妖怪うぃき的妖怪図鑑

妖怪うぃきから産まれた妖怪図鑑ブログ。妖怪の原点に触れ、もっと魑魅魍魎を知るきっかけになれば幸いです。

帷子辻(かたびらがつじ)

『絵本百物語』

帷子辻

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『絵本百物語』より「帷子辻」
 
帷子辻は、現在の京都市帷子ノ辻周辺で起きた怪異。
簡単に言ってしまえば、腐乱した女性の死体が見える怪異であるが、その元となっている物語はなかなか面白い。
『絵本百物語』によれば、檀林皇后という美しい皇后がおり、自分の美貌にうつつをぬかす僧達が後を絶たないことを憂いていた。檀林皇后は熱心な仏教徒であり、死の際に今一度皆に「諸行無常」を感じてもらうべく、自らの遺体を野にうち捨てるように指示をした。
約束は守られ、皇后の遺体は野晒しとなり、だんだんと腐り、カラスや犬に食われ、蛆が湧いていく。その様を見た人々は皆、世の無常を改めて感じ、うつつを抜かしていた僧達も熱心に修行に励むようになったという。
そして後世、その檀林皇后が自らの遺体を晒した場所で、「女の死体が横たわっている」などの怪異が起こり、そこは檀林皇后が死装束として纏っていた経帷子に因んで「帷子辻」と言われるようになった。
 
美しく、人気も絶大だった女性の腐っていく様は人々の心を揺さぶり、動かし、改心までさせた。
身をもって無常を体現した檀林皇后様に拍手です。
 

現代妖怪譚~帷子辻をもう一度~

 
俺のバイトしてたパチンコ屋であった出来事。
思い出すだけでけっこう気分悪くなるし、寒気がする。
けどまぁいい機会だから書く。

――俺はかなり寂れたパチ屋で働いてたんだけど、例外的に従業員はみんな性格がいいやつだった。パチ屋のヤツってみんな性格悪いってよく言うだろ? 俺のとこは違ったってこと。

特に社員で信頼も厚かったAさんっていう女の人がいたんだけど、その人なんか男バイトの全員に惚れられるぐらいに性格も良いし、美人だし、仕事もバリバリこなしてた。ホールを歩き回ってれば必ず常連のじいさんとかに声かけられてたし、色んなもん買ってもらったりしてた。そういう天賦の魅力みたいなのを持った人ってたまにいるじゃんか。まさにそういう人だった。

もちろん、俺もすぐにAさんの魅力に憑りつかれた。惚れたんだ。

けど本当に男バイトのほぼ全員がAさんには惚れてたから、別に恥ずかしくもなかったし、情報収集もしやすかった。

特にAさんに惚れてた男で、メガネ君ってまんまなあだ名の仲間がいたんだけど、そいつに聞けば何でもすぐに教えてくれた。まぁ……メガネ君はちょっとしたストーカーだったな。

ただ、Aさんにはかなり謎なトコロが多くって、例えばずっと彼氏がいないらしいこととか、何か危ない宗教? みたいなのに入れ込んでるとか、妙な噂は絶えなかった。でもパチ屋で働いてるぐらいだから少しは妙じゃないとモタナイだろ、と俺は思ってたけど。

で、そういう謎も、メガネ君から情報を聞き出すようになってからすぐに解けた。というか解けちゃった。

なんでもAさんは「彼女」がいるらしい。レズビアンだったってこと。危ない宗教に――っていう噂も、不気味なぐらいにその「彼女」に尽くしてるから湧いて出た噂らしかった。

いきなり失恋。しかもまさかの百合展開だ。

でも、みんなメガネ君にそれを聞かされて同じ思いを味わってきた、ってことも解ってちょっと安心したんだ。

そのパチ屋のバイトにも慣れてくると、Aさんファンクラブじゃないけど、そういう仲間意識が自然と生まれてきて、何かと男バイトは団結してやるようになった。

仕事もうまくみんなでシフトの穴埋めしながら回した。

休憩中には、休憩室内にある監視カメラのモニターで、みんなでAさんの仕事っぷりを見ながらだべったりもした。そのモニターは、普段は9分割された画面で店内の色んな所を映してるから、どこにAさんがいるかを探す勝負をしたりもした。あほくさいけど、ちょっとした「バイト青春」しちゃってたんだ。

基本的には、常連のおっさんに愛想笑いしたり、未成年のガキに逆ギレされたり、あんまり楽しくはないんだけど、Aさんと仲間のお蔭で行くのはヤじゃなかったな。



でも、そんな平凡なバイト生活も長くは続かなかったんだ。←なんかありきたりな文章だが、まさにそんな感じ。

いつから始まったかは解んないんだけど、Aさんが変な質問をバイトのみんなにするようになった。

「帷子が辻って知ってる?」

って、みんなに聞いて回ってたんだ。俺も聞かれたけど、カタビラっていうのがそもそも何かわかんねぇから、「キャタピラと言えばガンタンクですね」って答えたけど、華麗に無視されたわ。

メガネ君だけは知ってたらしい。

地名でもあるし、妖怪じみた怪異の起こる場所でもある――だとかなんとか。

メガネ君がそう答えると、Aさんは特に喜ぶでもなく、「うそつけぇ」っておどけて言ったとか。メガネ君はその日やけに沈んでた(笑)


それから一週間後ぐらいして、我がパチ屋を震撼させる事件が起きた。

Aさんまさかのバックレ。

最初はみんな、本気でAさんがバックレたとは思わなかった。そんなことする人じゃなかったし、そもそも理由も無さそうだし。

けど、3日間ぐらい連続で店に来なくって、普段滅多に店に来ない店長(つか最早空気なオーナーって感じだった)がAさんのマンションにも行ったんだけど、誰もいなかったらしい。

突然恐ろしく崩壊したシフトをなんとか埋めるべく俺らは頑張った。Aさんのいなくなったその時、唯一のモチベーションは「Aさんがフラっと帰って来て俺達を褒めまくってくれる」かも知れないことだけだった。

――が、Aさんは帰って来なかった。

しかもAさんバックレ事件が起きてから、店では変なことばかり起きた。

物凄い悪臭が突然店内にたちこめたり、見たことも無い気持ち悪い虫が大量発生したり。しかもどの異変も原因がハッキリしない。だからバイトの間ではAさんの呪いってことになってた。



Aさんバックレから一か月ぐらい経ったある日、俺らは店長に集められ、休憩室で会議を開くことになった。もちろん議題は「今後どうするか」しかない。

いい機会でもあったから、みんな一様に店長にAさんバックレについて心当たりは無いか? 等の質問をした。

店長は「むしろ俺が聞きたい」って言った。そりゃそうか。

ただ、店長は「カタビラがなんたらって知ってますか? って聞かれたなぁ」とも言ってた。やっぱり店長にも聞いてたらしい。なんなんだよカタビラガツジって。

その会議中、ふいにメガネ君が大声を上げ、どこかを指さした。

みんな自分達がその声に驚いてしまった事に笑いながら、メガネ君の指さした方を見て、固まった。

メガネ君が指したのは監視カメラの映像が映るモニターだった。

そしてそのモニターには――Aさんがホールの真ん中で横たわっている姿が大きく映し出されていた。

皆、驚きのあまりに声も出さずにただその映像を見ていた。

画面の中のAさんは全く動かない。

すぐに俺の中には恐怖心が芽生えた。これは何だ? 何の映像だ?

仲間の一人が「Aさんだ!」と叫んで店内に駆け出そうとしたが、すぐに違うバイト仲間の一人がそいつの服をガシっと掴み、

「てか今って夜だよな? この映像、営業中のじゃね?」

と言った。

俺はモニターに映るAさんの周りに、たまにドル箱を持った客の姿が映っていることを認め、さらに怖くなった。

つまりこの映像は過去に録画されたもので、しかも店の営業中に撮られたものだということだ。誰が今こんな過去の映像を流したんだ? っていうか、何であんなホールの真ん中にAさんが寝てて誰も気づかなかったんだ?

休憩室には物凄く重い「恐怖」の感情が渦巻いていた。

何? ……これは……何?

パッ、と画面が切り替わった。

今度は景品交換カウンターの斜め上からの映像。そして、カウンターの上に同じ姿勢でAさんが横たわっていた。しかし明らかにさっきとは違う。場所ではなく、Aさんが、だ。

「死んでる……よな……」

誰かが小さく呟いた。

そう、Aさんはどこか少し太って見えた。血色も悪い。

死んでる……のか?

わけもわからずそのまま見ていると、また画面が切り替わった。

今度は直視できないようなAさんの姿が映っていた。明らかに皮膚が爛れ、腐り、全身にササクレのような破れた部分が見える。

因みに、この段階で店長は失禁して気絶した。しかし誰もその事を笑いもしなかったし、気にもしなかった。とにかく異様で異常な雰囲気だった。

突然、メガネ君が発狂したような裏返った声で、

「帷子が辻! 九相図!」

と叫んだ。

メガネ君はそのまま携帯をいじり、何かを調べ始めた。なぜかメガネ君が物凄く頼もしく見えた。

モニターはまた切り替わる。今度はパチンコ台の真上。そこに同じ姿勢で横たわるAさんの姿。Aさんは最早Aさんと認識できない程に、腐り、見たことも無い人体の内部が露出し始めていた。

そしてAさんの横たわったパチンコ台の周りには、多数の客が映っていて、みんな鼻をつまんでいる。

「おい……これってあの異臭騒ぎの日じゃないか?」

誰かが言った。

そうだ。間違いない。今モニターに映っている客。あの日だ。俺も確かにあの日、あの臭いを嗅いだ。それは……Aさんの腐った臭いだった???
でもAさんの姿なんて絶対に無かった。絶対に……。

――それから、モニターは淡々とAさんの体の朽ちていく様子を写し続けた。休憩室の何人かの仲間はその場で嘔吐し、何人かは泣き出した。

ただただ、みんなが大好きだったあのAさんの朽ち果てていく死体を眺める。拷問のような時間。でも、なぜかみんな見るのを止めなかった。

虫が大量発生した日も、やっぱりAさんから沸いたウジが原因だったと映像で判明した。俺はその映像で一回吐いた。

最後に、モニターはいつもの9分割の画面に戻った。
しかしそれは全てAさんの映った画面だった。美しかったAさんの、骨になるまでの経緯。
メガネ君が静かに手を挙げ、言った。

「帷子辻のこと調べたんです。檀林皇后という女性が、自らの亡骸を野に放置させ、それを描かせたんだとか。死をしかと見る為、無常を心に刻む為に。そしてそれはクソウズ(九相図)と呼ばれ、美しい死を描いたものとして残されているそうです。まさにこれも……」

帷子辻……だということか。

――この事件は、結局全てが謎のまま終わった。

警察にも届けたんだけど、監視カメラの映像をどれだけ調べても、あの夜に俺らが見たような映像は無かったらしい。

俺の仲間も、俺も、なぜかそのことに驚かなかった。

あまりにも異様だったからなのか、それとも別の何かがそう思わせたのかは判らないけど。単純にみんなAさんの死を認めたくなかっただけかも知れないし。

当然、Aさんも行方不明のまま。

さらに、Aさんの「彼女」という人物についても、誰も、何も知らなかった。

ただ一つ、Aさんがなぜか偽名だったって事だけが発覚した。

本当の姓は、橘だったらしい。ここでもメガネ君が発狂しちゃって、

「帷子辻に自らを晒させた檀林皇后は、本名が橘 嘉智子(たちばなのかちこ)ですよ!」ってガクブルしながら言ってた。それとどう関係してるのかは俺にはわかりません。

帷子辻をパチ屋に蘇らせることの意味が、特に解りません。



――この事件はこれでおしまい。今も俺はその店じゃないけど相変わらずパチ屋でバイトしてる。

あれを見たみんなの心には間違いなく鮮烈にAさんの死にゆく姿は刻まれたと思う。

そして、死ぬっていうのは凄く儚くて、美しいものなんだな、って俺は思った。

だから今は、死ぬのも怖くないし、また生きるのも楽しい。死体見といて言うのも変かも知れないけど、(てかまだAさんが死んだっていう証拠はないんだけど)Aさんが俺らみたいな底辺バイトしてるクズ男達に何を伝えたかったか、言葉にはできないけどちょっとわかった気がしてる。

最後に、一応九相図を貼っておく。

これを生の人間、それも想いを寄せた、美しい女性で見てしまったらどうなるか、少しでも解ってもらえると嬉しい。

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